MGC通信販売部限定カスタム COLT 32ACP HW(旧刻印) と SIG P210 HW

元々数もバリエーションも少ないMGC通信販売部の限定カスタムですが、その中でも最後の方に出たものですね。

[32ACP旧刻印モデル]は三隈さんがかねてから欲しかった物です。
「ランパンコルトがスライド後端にある旧型刻印のほうがカッコイイし、モデルアップされていないので欲しがっている人がいる!絶対いる!! 全国に50人はいる!!」
と彼は言い切りました。

一方[SIG P210m木目HWグリップ付き]は、SP47/8として発売直後にだけ生産された木製グリップを何とかして復活させようとしたモデルです。

これら2モデルは三隈さんが「自分が昔から欲しかった物を作る」という発想が原点になってますが、私や三隈さん自身を含めたファンの潜在的要望(一部は要望ハガキ等で顕在化していた)を最大公約数的に取り込んでいたので、私も積極的に支持しました。
その後の会社側との折衝の結果、「リスクは通販部で負う」という条件で生産許可がおり、[通信販売部限定モデル]として誕生しました。

会社上層部は売れ行きに懐疑的でしたが、当の私達はまったく心配していませんでした。
当時(恐らく92~94年頃)通信販売部では[通販ニコニコ新聞]というA4一枚物のコピー誌を月1~2回の準定期発行しており、ほぼ全ての注文品発送に同封していました。
内容は新製品紹介が主で、雑誌掲載広告の様な「スタイリッシュ」とか「クール」路線ではなく、もっとアットホーム&コミカル路線を目指した物でしたが、これが意外に好評で、「次号はまだですか?」とか「バックナンバー全部欲しい」という電話での問い合わせもあった程。
正確な数字は忘却の彼方ですが、通販部では銃本体・部品・アクセサリー等を合わせて少なくとも月間700通、繁忙期には1200通以上の発注がありました。更には一般店舗どころか直営店にも出回らない通販部限定商品となれば「50丁どころか100丁程度は絶対売り切れる」という自信がありましたよ。
実際私達の自信を裏付ける様に限定数を大きく上回る申し込みがあり即日完売。増産したくても部品がそろわず泣く泣く返金と相成りました。

P210も32ACPも社内で計画倒産の噂が公然と語られるようになった頃の製品で、「会社がなくなる前に一花咲かせよう!」という意気込みが漲(みなぎ)り、発案から製作まで非常に短期間で行われました。当時私はプチガバをはじめとした他のカスタムで忙しかったので、刻印の彫刻と組立後の調整という根幹作業以外は通販部全員(三隈さん・佐々木・藤野)が仕上げ・組立に参加しています。

32ACPのスライド刻印は打刻用刻印スタンプを作る事も考えましたが、刻印打刻担当の職人さんや渉外・発注の元締め資材部に確認すると、とんでもなくコストと時間がかかる事が判明して断念。レーザー刻印機は当時まだまだ高価で自社導入はされておらず、外注予算ももらえませんでしたから回転カッター式の刻印機で対応する事になりました。部品がそろわず20丁程度しか生産できない事がわかった事も手動彫刻の後押しになりました。

P210の木製グリップは、分厚い素材からの削り出しで破損率が高く、価格とコストの折り合いが非常に悪い製品で、再生産の要望が多数ありながら会社としてはずーっと対応していませんでした。私や三隈さんも一ファンとして「何とかしたい」と思い続けていたものの「最小ロット数500個」とか言われるとどうにも手の出ない世界…。
P210がHW化された頃は、ちょうどGM5HW系やローマンMkⅢ系などで木目調グリップの実績ができ塗装品位も安定してきたタイミングでした。それに目を付けた三隈さんが「木製グリップが作れないなら、かわりに木目塗装グリップを作ってみよう!」と企画。
最小ロットについてペイント工場に問い合わせてみると、意外と少数でテスト生産をしてくれるという回答を得て「渡りに船」とばかりにお願いしてできあがったのが、P210と32ACPで採用したフレンチウォールナット風塗装のHWグリップです。
クリップの色調は最初は明るい色調を検討しましたが、「グリップだけが浮いてしまう」と三隈さん好みの[ウォールナット風暗褐色系]が選ばれました。
でき上がってみるとそのマッチングの良さにため息が出たほど。「これで中身の再現度がGM5レベルならなぁ~…。」とついつい愚痴がこぼれてしまいました。
P210本体はスーパーブラック仕上げ以外に特別な加工や装備はありません。
両モデルとも刻印は特殊な耐油塗料で金象嵌風にしてあります。




32ACP旧型刻部分アップ
MGC通信販売部限定カスタムには極少数のネーム入りが存在し、総数は4丁です。
ネーム入り32ACPは全部で3丁製作され、そのうちの1丁がこれです。
※所有者の意向により名前は伏せてあります。ご了承ください。
スライドの刻印はすべて手動彫り。特殊な原版とカッターで刻印を彫刻するのですが、綺麗に刻印できるのは最初の20丁程度です。


スライド製作手順は手順は以下の通り。

  1. スライド側面を耐水ペーパーを使って綺麗に均します。設計が古く酷使された金型による成型の上、HW材は金型への攻撃性が強く、スライド両側面は目に見えて波打っています。これを綺麗な平面に整え彫刻の下準備をします。
  2. 彫刻機にスライドと刻印原版をセットします。刻印原版の固定は水平・垂直に注意する程度で難しくありませんが、スライドの固定は職人技を要求されます。しっかり固定しないと綺麗に彫刻できませんが、締め付けを強くしすぎるとプラスチックのスライドが歪んで平面が出なくなってしまいます。
  3. 刻印機の腕木を調整して縮尺率を設定します。5:1が作業し易い縮尺率でした。
  4. 電源を投入し、彫刻を始めます。カッターは円錐を半分に割った形をしており、深く彫ると文字も太くなります。綺麗に刻印する為にカッターの回転を上げるとプラスチックが溶けてしまったりで調整が難しかったですね。
  5. 彫刻が終わったら、刻印のエッジを修正する為もう一度軽く耐水ペーパーを当てる。
  6. 特殊溶液に浸して黒染めする。洗浄後は象嵌風処理。

刻印原盤はアルミ製なので、刻印機の鉄製トレース棒で何度なぞると角が鈍ってしまう為
も非常に神経を使う作業で大変でした。

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