MGC通信販売部限定カスタム[プチガバメント]が世に出るまで 第一回

MGCの製造部門廃業直前の約1年間に発売された通信販売部のみの限定カスタム。
その総数は試作を含めても100丁に届きません。
その中で、昔からの夢の具現化をきっかけとして製品化が動き出し、勢いと意地が完成まで引っ張ったカスタムが「プチガバメント」です。

試作1号機(左)と二次量産後期型(右)の通常分解写真

この話は基本的に実話です。プライバシーに配慮して固有名詞は伏せています。


夢ときっかけ

それは何気ない一言から始まりました。
「これ以上はないぐらいに切り詰めたガバメントが欲しい!」
ある日の午後、MGC本社工場内の一角にある通信販売部で三隈さんがそう呟いたのが総ての始まりでした。

二十歳を過ぎた頃からガバメントの短縮モデルに強い興味を持ち始めた三隈さんは、GM2ベースのコマンダーやGM5系のデトニクスコンバットマスター(以下デトニクス)で胸につっかえた物を取り除く事はできましたが、あくまで一時しのぎで、本当に欲しいものは手に入らずじまいでした。
中途半端に溜飲を下げた事が結局[本当に欲しい物]を強く意識する結果になった様で、その熱意は[極限まで切り詰めたガバメントをメーカーに作ってもらう]という方向から、[自ら作り出す]という方向へ大きく舵を切りました。
メーカーに勤めていたという事も後押ししたでしょう。
そこで仲がよく機械加工に長けた同僚の大本さんに相談することに。
大本さんは旋盤やフライス盤をはじめとした各種工業機械を縦横無尽に操って様々な物を造る技術の持ち主で「この人なら、あるいは…」と思わせてくれましたが、検討の結果は大本さんも「三隈さんの求めるサイズと内容では製作不可能、残念です。」という回答で、ブスブスと不完全燃焼のまま、心に残ることになりました。
「それってデトニクスじゃ駄目なの?」
そう問い返したのは通販部の同僚直江津さん。
直江津さんの頭の中には当時取り扱っていたABS製モデルガンとエアソフトガンの殆どについてのパーツリストが入っていて、製品仕様はもちろん互換性の有無だけではなく、〇〇の×××というパーツは△△△の□□□□□と形状は違うけど組み換え可能で組み替えた方が調子も良い…なんて独自情報の他、快調作動の調整ノウハウも詰まってました。
そういう直江津さんなので、複数製品のパーツを寄せ集めて形にする能力と独自に改良する柔軟性も持ち合わせていました。
で、直江津さんは「究極まで切り詰めたガバメント=デトニクス」と信じて疑っていなかったので、三隈さんの呟きに違和感を覚えた訳です。
するとすぐに三隈さんの返答がありました。
「アレはガバメントじゃ無い。俺が欲しいのはガバメントの形そのままにギリギリまで切り詰めた物。確かにデトニクスより小さくするのは無理らしいけど、でもアレを『ガバメント類だ!』って言われても認められない点があるんだ。」
そう言って納得できない部分を指折りして挙げる。
  1. リアサイトがスライド中央にある
  2. リアサイト直後からスライド上面が後端までが削り取られている
  3. ガバメントでいうグリップセーフティにあたるフレーム後方のカーブがイヤ
これらが解消されなければ到底ガバメントの短縮モデルとは認められないと言うのです。
直江津さんもデトニクスを握った時に感じた親指・人差指間の水かき状部分の落ち着きの悪さを思い出して、グリップセーフティ部には同調したものの、スライド側については「コンシール性優先とはそういうものだから…」と割り切っていました。
でもそこで三隈さんを説得しないのが直江津さんで、代わりにこんな事を言いました。
「取りあえず造ってみる?」
三隈さんのいうミニマムなガバメント「面白そうだし、同僚の理想のモデルガンを作ってあげられたら嬉しい!」と思ったのです。
「スライドを切った・貼ったするのは後にして、まずはフレーム側を造ってみようよ」
「簡単にできるのかい?」
「簡単じゃないかも知れないけど、それは僕が何とかするよ」
後から考えると、このわずか5分程度の会話で後の流れは完全に決まりました。

また終業まではいくらか間があったので、直江津さんはパーツセンターへ出向いてミニマムなガバメントを造るのに必要なパーツを探します。目指すはGM5ガバメントのABS製メインフレームです。当時GM5系モデルガンはHW(ヘビーウェイト)への移行が完了していて、ABS製のスライド/メインフレームは注文も入らなくなり、会社の方針として[在庫がなくなり次第販売終了]という状況でした。そしてパーツセンターを隅々まで漁って出てきたのはABS製メインフレームが1本だけ。
「ラッキー! 早速買って、今夜作っちゃおう!!」
もしこの時フレームが見つからなかったらプチガバメントは世に出ていなかったかも知れません。
ちなみに名前については、そもそもこの時点では量産する気はまったくなかったので、
「ちっちゃいガバだから、ミニガバとかプチガバかねぇ?」
「プチガバの方が"ちっちゃい感"が強いよね~。」
という程度の話をしただけでした。


作ってみよう

その日の帰宅後、夕食と入浴を済ませると早速直江津さんはミニマムなガバメント試作1号機の製作に取りかかりました。
まずは手持ちのデトニクスを分解しますが、今回はスライド側には手を付けないので、フレーム側のみ完全分解します。
次はそのフレームとGM5メインフレームを比較して加工を検討です。

デトニクスの方が全長・全高が共に小さく装弾数も少ないので、メインフレーム先端のリコイルスプリングをカバーする部分とグリップを切り詰める必要があります。切り詰め量はデトニクスのメインフレームを定規代わりにして決めます。

直江津さんは分っていましたがGM5のメインフレームをデトニクスに揃えて切り詰めると下側のグリップナットが無くなってしまいます。すると当然無くなってしまった分2箇所のグリップナットの新造が必要になります。…でもそれはフレームの重量軽減孔にかぶってしまうので、そのままではできません。そこで問題の重量軽減孔をABS樹脂板をプラリペアによる溶着で塞ぎグリップナットを新設します。実はこの溶着工程があるのでABS製フレームが必要だったのです。
フレームへの加工はもう一箇所、シアスプリングを引っ掛けるスリットです。
シアスプリングはシアだけでなくディスコネクタの動きに重要なパーツで、特に銃の高さ方向に位置が狂うとたちまち動作不良を起こします。そうならないために下端がL字に曲げてありフレームのスリットに引っかかるようになっています。フレームの短縮加工でこのスリットもなくなってしまうので新たに作る必要ができました。

2018/01/16の追記--ここから--
ABS樹脂のプラリペアによる溶着強度は大したもので、スライド破損をプラリペアで溶着補修しただけで発火衝撃に耐えてしまったという経験が直江津さんにはあったので、当時は特に[プラリペア溶着]に拘っていました。現在でもHW樹脂は溶着できませんが、現在はラピッドフィックス等のとても良い[ほぼ瞬間接着剤]が入手できるので加工の選択肢は当時とは全く違いますね。
--ここまで--

フレームの切り詰めの目処が立ったので、周辺パーツを決めます。
ハンマーは「コマンダー等の真円タイプのリングハンマーは野暮ったくてイヤ」という直江津さんの個人的趣味でホーグナショナルマッチ用ダブルホールタイプに。

グリップセーフティはノーマル形状ではダブルホールハンマーと干渉してフルコックできなくなるのでGM5用カスタムパーツからホーグタイプを選択。これはグリップセーフティのキャンセルとメインフレーム後端部を加工しなくて良いことが理由でした。

メインスプリングハウジングはカスタム感を出しつつも派手にしない為にGM9用ストレートタイプに、メインスプリングはしなやかでテンションも少し軽いローマンMk-Ⅲ用を選択。

  GM5初期のサイド発火にあわせて設計されたメインスプリングは直接ハンマーに叩かれる
  ファイアリングピンとサイド式ファイアリングプレートとGM-CPカートリッジの3点セット
  をバレル内のデトネーターに叩きつけて発火させる為かなりテンションが高く設定されてい
  ました。
  GM5はその後の改良でセンターファイア化されます。センターファイアタイプではスライ
  の樹脂製ブリーチブロック内に分解不可の樹脂製ファイアリングピンが組み込まれました。
  この樹脂製ファイアリングピンはカートリッジ内のキャップ火薬とその後ろにいるインナー
  だけをデトネーターに叩きつければ良い訳です。
  「樹脂製ファイフリングピンとインナーの2点セットはサイド発火の金属3点セットにに比べ
  たらとても軽いのでメインスプリングのテンションをちょっと下げて撃発時にハンマーの発生
  する力積を小さくしてもキャップ火薬は発火するしブローバック時にハンマーをフルコックす
  る為に使われエネルギーも減るので快調作動にするはず」と考えて、使ってみたら問題無く作
  動したので、直江津さんの個人コレクションはみんなローマンMk-Ⅲ用に換装したそうです。

  パーツの名前は同じ[メインスプリング]、そしてローマンMk-Ⅲ用とGM5用のそれぞれは
  使われているバネ鋼線の線径以外は本当によく似ていました。設計時期も担当者も全く違い
  ますから、「他人の空似」状態です。
  しかもリボルバー用の部品をオートマチック使ってみようなんて考える人はそうそういない
  から、直江津さん以外にこの事に気付いていた人はいなかったでしょうねぇ。

  ちなみに直江津さんが「なぜそのことを知っていたのか?」というと、普段から仕事の合間に
  こういう組み換え可能パーツを探していたんですって。
  もちろん[そのまま使う]だけでなく[一部を加工・変形させて使う]というやり方や、
  [他社製品のパーツを代替させる」など様々に活用していたそうです。
  直江津さん個人持ちのパーツリストにはこういうTipsも書いてあったそうです。


いよいよ実際の加工をします。
デトニクスのフレームとマガジンを定規代わりにしてABSメインフレームにケガキを入れ、ピラニアソーという薄刃の模型用鋸で切断しちゃいます。
直江津さんは何度と無く似たような加工をしているのですが、補修パーツ無しでの一八勝負はさすがに緊張したようです。
切断加工、寸法確認の両方が無事に終わると、ほっと一息です。

次はシアスプリング固定スロットの加工です。
デトニクス用シアスプリングで固定用スリットを位置決めし、溝の奥を加工するために作った変形ヤスリを使い、15分程かかって作業を終えました。リューターが使えれば殆ど瞬殺の作業なんですが、帰宅後の加工作業はどうしても深夜になってしまうことが多くて、ある程度の音がでてしまうモーターツールは家族との約束で使えない為、ローテクヤスリの出番となりました。

最後はグリップナットの新造です。
重量軽減孔にあわせてをABS樹脂板を切り出しますが、下1/3だけで足りるのでちょっと短く作り、プラリペアの溶液とパウダーでがっちり溶着します。気温にもよりますが30分も経過すれば小径ドリルの穿孔やヤスリがけはOKなので、他のモデルガンのメンテで時間を潰して仕上げにかかります。デトニクスのグリップパネルを使って下側グリップスクリュー位置のケガキを入れ、5mmドリルで穿孔します。最後は真鍮製グリップナットをABS板にがっちり食い込ませて完成です。
プラスチックパーツの加工はこれでおしまい。
本邦初公開 プチガバメント試作一号機の新造したグリップナット部
上の画像は製作以来25年以上経って初めて公開した新造グリップナット部です。三隈さんもここは見た事がありません。何か理由があって隠していた訳ではなく、単に「見せて」と言われなかっただけです。

残ったのは金属パーツの加工。
こっちもローテク対応なので使うのは金ノコ、金ヤスリ、寸法確認のノギス。

グリップセーフティとメインスプリングハウジングはフレーム全高の変化に合わせて全長を詰める必要がありますが、手間と時間のかかる金属部品加工をなるべく少なくしたかったので、グリッフセーフティ側を短縮して辻褄を合わせました。
直江津さんによると「メインスプリングハウジングを短縮すると組み立てた状態でのメインスプリングセット長が変わってブローバックのバランスが崩れ、煩雑で時間もお金もかかる発火調整をするのがイヤだったんです。」ですって。

シアスプリングはメインスプリングハウジングとメインフレームに挟まれて保持されますが、フレーム下端を切り詰めたのでメインスプリングハウジング全体が切り詰め分上にずれる事になりました。これに対応して[メインスプリングハウジング全体を薄く整形する]+[シアスプリングの逃がし作り]がこの日一番の難所でした。
結局この日の加工作業時間の半分以上はメインスプリングハウジング加工でした。

プチガバメント試作一号機のバックストラップ部分、滑り止めシートが貼られています。
  上の画像を見ると割とキレイに仕上がっていてそんなに大変な作業だったように見えませんが、
  直江津さんは「頼まれても二度とやらない」と言ってます。

試作一号機の加工は概ね3時間で終わったそうです。
フレーム側を組み上げて、手を付けなかったデトニクススライドと組み合わせ完成品状態にしたあと、マガジンにGM-CPカートを装填して空作動をさせてみると送弾も排莢も引っかかり無くスムースです。カートリッジはエジェクションポートからくるくる回りながら快調に飛び出します。快調動作の予感がします!
今回の加工ではメインスプリングの交換以外は、みな実績のあるデトニクスを下敷きにした変更なので、発火さえすればブローバックは問題無いはず。

ふと時計を見ると午前一時を少々過ぎた位。
今日やるべきことは終わったので、明日に備えて就寝します。
「おやすみなさい。」


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 元記事に使われていた画像が今回の再録でそのまま使うにはちょっと納得行かなかったので、再撮影してみました。
Iphone7で撮影したのですが、 元記事に使われていた2011年撮影の画像とは雲泥の差で技術の進歩を実感しました。

試作一号機のオリジナル状態からの変更点は

  1. フレーム先端を斜めにカット
  2. マガジンキャッチをワイドタイプに交換
  3. ウェスタンアームズ製ステンレスアンビセーフティ装着とそれに必要な加工
  4. リコイルスプリングガイドとプラグの新造
  5. 10mmへの口径変更に必要な加工一式(バレル、マガジン、ブリーチ周り、亜鉛合金一体式エキストラクタ、その他にダミーカート使用に必要な変更を含む)
  6. ヘレットタイプスキップドチェッカーグリップの加工・装着
  7. ブラ製ロングタイプトリガー装着、その後金属製ロングタイプトリガー装着
  8. 刻印にP210や32ACPで使った金象嵌風塗料を使用

プチガバメント試作一号機 後年の追加工で10mmAUTO仕様になっています。

プチガバメント試作一号機10mmAUTO仕様 通常分解



上:10mmAUTO仕様バレル 下:デトニクスノーマルバレル





左:10mmAUTOダミーカート 右:デルタエリート用改造マガジン
こんな小さい銃から10mmAUTOを発射したら、とんでもない反動で命中させにくい上に連射が効かないので扱いづらいと思うのですが、是非実銃カスタムで作ってみたいです。
実際にバックアップ用で使うなら使用弾薬は.40S&Wでしょうね。

下の画像2枚はプチガバメントの大きさを感覚的に理解していただく為の物です。
プチガバメントのサイズは基本的にデトニクスのままですが、2018年の現在ではデトニクスを入手するのはかなり難儀なのではと思い撮影してみました。
まずはKJワークスのグロック19と一緒に。
グロック19とプチガバメント試作一号機 サイズ比較
カタログデータ的な測り方をすると全長はほぼ同じです。
全高はマガジンベースプレート分グロック19が大きいです。
グリップ前後幅の中心を揃えるとグロック19の方が約1cmスライド先端とマズルが出っ張ります。銃身長も同じくらいグロック19の方が長いです。

次は東京マルイ製グロック26ベースのカスタムグロック26Plusとの比較。
グロック26Plusとプチガバメント試作一号機 サイズ比較

こちらは全長、全高、銃身長共にほぼ同じです。
グリップを握った感覚はやっぱりかなり違います。.45ACPシングルカラムと9mmダブルカラムでは違わないとおかしいというレベルですね。


第二回はいつ頃掲載できるでしょうかねぇ…?


コメント

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