MGC通信販売部限定カスタム[プチガバメント]が世に出るまで 第二回

理想型へ

深夜の加工・組み立てが無事に済んだ翌日の通販部。始業まであと5分位というタイミングで直江津さんは三隈さんの机にプチガバメント試作一号機を置きました。
現在の試作一号機外観 三隈さんが初めて試作一号機を見た時は、
グリップ、マガジンキャッチ、サムセーフティの三点は純正品のままで、
トリガーはプラスチック製ロングタイプが装着されていました。
「とりあえず造ってみたけど、どうでしょう?」
「もうできたの?相変わらず仕事早いねぇ~。」
三隈さんはとにかくできたばっかりの試作1号機を握ってみた。
「いいねぇ、やっぱりこうでなきゃ…」
バックストラップが親指と人差し指との間にぴたっと収まり、親指はサムセーフティに自然と乗って違和感なし! まさにガバメントそのままというグリップ感に三隈さんの頬も緩みます。追い求めていた「ミニマムガバメント」への小さいながら確実な1歩を実感です。
「初っ端からこんなのを見ちゃうと、スライド側も期待しちゃうね。是非シリーズ70刻印でお願い!!」
「そう来ると思った。でも昨日も言った通り加工素材が無いのですぐには無理だし、それに高い高いハードルがあるよ……」
元々"ガバメントそのままにデトニクスのサイズまで切り詰める"という方針だったので、刻印の話は想定内ではありましたが…。

それでは三隈さんへの説明と同じ内容で「何故高い高いハードルなのか」を説明します。まずは下の画像を見てください。
説明をGM5 5inchiスライドとデトニクススライド比較
GM5 5インチスライドとデトニクススライドの後端を揃えて撮影した画像で、デトニクススライドの先端にあわせて赤い線が引いてあります。これがミニマムガバメントとしての理想的な長さです。
これを見るとスライド操作用滑り止めセレーションの位置は双方で同じ事と、理想的な位置でカットしたとしてもシリーズ70の刻印はちゃんと残るしスライド側面の平坦部分のほぼ中央になるので見た目も良さそうです……。
気がかりなのは緑斜線で示した重量軽減の抉(えぐ)りがなくなってしまうことです。このえぐりによるスライド側面平坦部分の幅の変化は、ガバメントらしさにすごく影響してます。どの位か確かめたい方は赤線より左側を手で隠してみてください。
「ね? すごく変でしょ?」

"ガバメントそのままで"に拘ると次の問題が、

「バレルブッシングは?」

バレルブッシングにはスライドと噛み合うラグがあり、スライド内側の溝にラグを嵌めて組み立てています。だから溝切り加工をしないとバレルブッシングは使えないし、その為には加工をしても穴が空いたりしないよう、その部分のスライド肉厚が重要です。
直江津さんが恐る恐るGM5のバレルブッシュとスライドを細かく調べてみました。
ラグはスライド先端から深さ4mmの位置で始まり幅は3mmでした。
スライド先端から赤い線の7mm位後ろまではスライドの肉厚は同じでした。そしてここは本社工場なので加工に必要な総て(治具、工具、寸法、加工に手慣れた職人さん)が揃ってます。
という訳で目出度く「スライドを赤い線まで切り詰めてもブレルブッシングを取り付けられる事」だけは確認できました。

でも、そんな事は以前ミニマムなガバメントの製作依頼を受けた大本さんも調べていたはずです。では何故製作不可能という回答だったのでしょう。

それはバレル(銃身)形状です。
オートマチックのバレルにはカートリッジが装填されるチャンバー(薬室)が後端にあって、バレルより一回り太くなっています。その一段太い部分はGM5のバレルでは5cm弱(47mm)もあります。
一回り太い部分はバレルブッシングを通れない上にスライドが一番後退した時、この一回り太い部分が例の赤い線からニュッと突き出します、2cmくらい……。

ここで大本さんの時代からちょっとだけ有利になった点がありました。それはコンバットコマンダーが製品化され専用パーツがいくつも製品化されていた事です。その中でも専用バレルブッシングはありがたかったですね~。
バレルブッシング2種 左:コマンダー用 右:GM5用
緑矢印で示しているのが組立用のラグ

問題を整理しましょう。

  1. 一回り太い部分が赤い線からニュッと2cmくらい突き出します
  2. バレルブッシング分(約7mm)のスライド延長が必要になります。
  3. 一回り太い部分とバレルブッシングがぶつからない様に1mmは隙間が欲しい。
  4. 20+7+1=28mm……あれ?

それってコマンダーと同じ大きさじゃん!!

大元さんが製作不可能と言う訳です。
直江津 : 結局いくら専用パーツが開発されてもダメなことはダメなままでした……。
まさかのオチに直江津さんもかなり意気消沈してしまいました。

でも直江津さんはこういう逆境に燃えるタイプで、すぐに気を取り直して打開策を考え始めると程なくして結論が出ます。

その結論とは…

  1. バレルブッシュを使う限りコマンダー以上短くするのは構造的に無理。
  2. バレルブッシュを使わないとスライドの中でバレルがガタガタ踊ってしまうので何かガイドが必要(デトニクスのバレルを使っても1mm以上隙間が空いてしまう)。
  3. コマンダー用バレルにマキシコンポ用バレルスリーブを被せば隙間をほぼ無くすことができる。突き出したバレルはみっともないので、スライドにあわせてバレルも短縮加工する。
  4. 短縮量が大きいので、発火動作は諦める。
  5. スライドはコマンダー用を切り詰める。重量軽減用の抉りが1cm位残るのでガバメントっぽさが残せる。
  6. フロントサイトはM1991A1用を移植する。


参考画像

デトニクスサイズに切り詰めたM1991コマンダースライドにデトニクスバレルを組み込んだ所です。
バレル外周17mm弱 VS スライド内周18mm強
その差1mm強…モデルガンレベルのか大きさで1mmも隙間があったらそれは「ガタガタ」とか「がはがば」というレベルです。



「三隈さんとしては納得できる結論じゃないと思うけど、コマンダーよりサイズを小さくするには他に方法が無いよ。大本さんが『不可能』という訳だ。」
「なるほどね、直江津くんがデータで説明してくれたから非常にわかり易かったよ。そこでこれからの方針だけど、やっぱり最小サイズが欲しいし、可能ならヘビーウェイトで欲しいから、引き続きトライしてくれるかな?それから刻印の件は次回のGM5HW生産の時にこそっと入れちゃう路線で行こう!」
「オーケー!!」
という事で、基本方針がしっかり定まったので、その日は巻で仕事を終わらせて試作2号機の準備を始めます。
まずコンバットコマンダーのスライドとフレームとバレル、マキシコンポ用バレルスリーブを各1ずつ購入します。
デトニクスからの移植パーツが色々有りますが、これについては何丁がある自前のデトニクスの中から一丁分解して調達することにしました。

スライドの刻印についての補足説明
刻印は専用プレス機で刻印ポンチをプラスチックの表面に打ち付けて入れます(打刻)。打刻自体は「ガチャン」と一瞬ですが、瞬間的にトン単位の力がかかっているそうで、とても危険なので専門の教育を受けた者だけが操作できる取り決めでした。
刻印打刻のセッティングは非常に細かな職人技が必要で、専門の技術者がでも半日がかりの緻密な作業と聞いています。事故防止の為専任者以外はプレス機の電源すら投入できませんでした。
それでも一度セッティングができれば、同系列のスライドに刻印する事は簡単な事だというのを三隈さんや直江津さんは知っていたので、GM5HWの生産時にコマンダースライドを持ちこみ、シリーズ70刻印を入れてもらっちゃおうという訳です。
ちなみにプレス機操作従事者が連続5年間無事故だと、申請しなくても現厚生労働省から表彰されるそうです(それだけ事故が多い業務という他、死亡を含む重大事故になりやすい為)。

こうした経緯で連日の作業です。
試作2号機をコンバットコマンダーHWモデルをベースで製作し始めました。
HW材は金属粉を混入して比重を大きくしたエンジニアリングプラスチックの一種で、硬くて脆いし、傷を付けると修復はほぼ不可能なので作業は緊張しました。

作業はスライド側とフレーム側と大きく2つに別れますが、フレーム側は昨夜の作業とほぼ同じです。大きく違うのはグリップの固定方法ですね。一号機はプラリペア溶着でグリップナットを新造しましたが、HW樹脂で同じ方法は使えません。
そこで考えたのは下記の方法。
  1. 上部は通常通りグリップスクリューで固定。
  2. 下部前縁にフレームと噛み合う突起ネジ止め。
  3. 後下端をロングタイプのメインスプリングハウジングピンで固定。
後年、直江津さんはこんなふうに言ってます。
「今は良い物をたくさん知っているし経験も積んだので、もっと簡単で確実な方法を使いますね。でも当時の限られた時間と資材(基本的に直江津さんの私物と持ち出し)の中で思いついた方法のうち、すぐ実現可能なのはこれだけだったんです。」


スライド側はまずデトニクスサイズに切り詰める事から始めました。当然フロントサイトが無くなってしまうので新造しますが、コマンダーのフロントサイトは形状が特殊な上に専用工具を使わないとカシメ固定できないので移植は諦め、穴を2個あけるだけで取り付けできる手軽さからGM8系M1991A1用を使いました。
全長短縮を最優先するためバレルブッシングを使わない事にしたのは説明済みですね。
リコイルスプリング周辺も同じく全長短縮最優先で、デトニクスのリコイルスプリング&ガイドアセンプリー丸ごとを移植しました。デトニクスではバレル下面を1mm程度削り落としてリコイルスプリングプラグとの干渉を防いでいますが、加工の簡単さを優先してリコイルスプリングプラグの一部を削り落として同様の効果を得ています。

試作2号機のバレルは3ピース構造です。

  • マズルカバー…バレルの先端をインサート直前でカットした物。ライフリングを見せるのが目的。
  • バレル本体…残ったバレルを、マズルカバーと組み合わせた時にデトニクスのバレルと同じ長さになるように切断した物。
  • アウタースリーブ…モデルガンのマキシコンポ用の物を使い、チャンバーを除くバレル全長にそろえて切断。

以上の3点をエポキシ樹脂接着剤で結合し、補強のためにバレル本体とスリーブは小径ホローセットスクリューで結合しています。組み立て式では発火の衝撃に耐えられないと判断してデトネーターは打ち込まず非発火仕様としました。
試作2号機の製作はグリップ固定方法が中々思いつかなかったので、4日かかってますが、とにかく形になりました。。
この試作2号機を見た三隈さんが大変気に入ってくれたので、お披露目と同時にそのまま譲り渡す事になりました。

※残念ながら試作2号機の画像は出元にありません。所在は知っているので、機会があったら是非撮影したいですね。

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その他の短縮モデル
直江津さんがプチコマンダーを作った後、コルトやスプリングフィールドアーモリーの様々なコンパクトモデルが日本にも広く紹介されMGCやWAがモデルガンやブローバックガスガンをモデルアップしています。その中でもコルトオフィサーズシリーズはバレルブッシュを装備していますが、どうやって装備しているのか気になったので調べて見ました。

シリーズ80のCOLT Officers Model .45ACP (1991~)
バレル先端がテーパー状に広がっていますから、もうこれを見ただけでわかりますね?
銃口部のアップ

  1. バレルの先端をチャンバー部分より太くする。
  2. バレル先端とぴったりフィットするようにバレルブッシングの内径も大きくする。
  3. チャンバーがバレルブッシング内を通れるようになる。
  4. 解決!!
  5. 結局バレルブッシングを使う限りコマンダーより短いモデルが作れないという結論に達した直江津は間違っていなかった(今更ながらドヤ顔したい気分です)!

個人的には銃口部を見ても格好良く感じません。これならデトニクスやV10ウルトラコンパクトの方が私好みに近いですよ。スライドの抉り部分を見ると、スライドの短縮方法は基本的にはプチガバと同じ手法ですが、コマンダーサイズをただ切り詰めているのではなく若干手を加えてますね。恐らくフレーム先端をデトニクスサイズから更に5~6mm位切り詰め、それにあわせてスライドの抉りを延長していると思われます。
バックストラップはプチガバと逆手法でフルサイズのグリップセーフティ+短縮形メインスプリングハウジングです。メインスプリングは当然専用品を開発しているでしょう。かけられる時間と予算と手間の規模がそもそも桁違いですからね。

V10 ウルトラコンパクト
短縮モデルつながりでこちらもご紹介。
残念ながら実銃のバレル単品画像が入手できなかったので、東京マルイ製ガスガンの通常分解状態です。実銃もテーパーバレルをスライド内側で直接保持するタイプで、基本構造としてはプチガバと同じです。オフィサーズと違ってコマンダースライドをただ切り詰めたようです(重量軽減抉りの形がプチガバ後期型とそっくり!)。
バレルのテーパー具合はオフィサーズよりずっとおとなしく、自分のコレクションに加えるならこちらですね。ノバックのリアサイトも中々格好良いです。
ただし、私が米国在住でセルフディフェンスを含めて一丁選べと言われたら、.45信者ではないので同等サイズ・装弾数が倍のGLOCK26にしますね。

それにしても何でこうまでして小さな銃から.45ACPを撃ちたいのでしょう?
やっぱり米国では「漢は黙って.45」なんですかねぇ・・・。

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